【国際税務コラム第1回】なぜ今、ドバイなのか?日本の富裕層が直面する現実
- 公認会計士(CPA) | 岡本 信吾

- 8月20日
- 読了時間: 6分
更新日:9月17日

近年、日本の富裕層や経営者の間で、ドバイへの移住や法人設立が急増しています。
税率はゼロ、ビザ取得も容易、そして世界のハブとしての立地。こうした条件が揃う一方で、「本当にメリットばかりなのか?」という疑問も浮かびます。
今回は国際税務の専門家・岡本先生に、ドバイの魅力と落とし穴を率直に語っていただきました。
質問1: 岡本先生は国際税務の専門家として、近年ドバイに資産を移したり、法人を設立されたりする日本の富裕層や経営者の動向をどのようにご覧になっていますか?
近年、日本の高い税負担や社会保険料、そしてインターネットやAIの発展による海外進出のハードル低下が背景となり、ドバイが新たな拠点として注目されています。特に所得が高い経営者や会社員の方ほど負担が高く、国際的な資産移転や居住地選択が活発化していると感じます。
少し前はシンガポールが資産の移転や法人設立の主な選択肢でしたが、新型コロナ以降はビザの取得が厳しくなっていることもあり、ビザの取得が比較的容易で、税制優遇も高いドバイが選ばれやすい傾向があります。
ALAN:つまり、日本の高まる税金や社会保険料の負担を背景に、今まさにドバイが移住先や事業拠点として存在感を強めているわけですね。
質問2:ドバイは「法人税・所得税ゼロ」というイメージが先行しますが、専門家の視点から見たドバイの税制・法制度上の本質的な魅力とは何でしょうか?
一言でいうとドバイは「住めるタックスヘイブン」としての魅力があるのかなと思います。
ヴァージン島やケイマンなど、単に法人税・所得税がゼロの地域は他にもありますが、これらの地域は実際に住むのが難しく税制的には「ペーパーカンパニー」としてみられてしまうことが多いです。その点、ドバイは実際に暮らしやビジネスの拠点となる環境が整っている点が大きな特徴です。
私は2020年ごろからドバイの税制に関与していますが、この5年だけでも過去に類をみないほどの経済成長や人口増加を目の当たりにしてきました。そして、今後もさらに発展する可能性を強く感じています。
ALAN:なるほど、「税金がゼロ」だけではなく、実際に住めてビジネスもできるインフラがあるという点が強みなのですね。
質問3:税制面以外で、事業拠点としてドバイが選ばれる理由についてもお聞かせください。

ドバイはヨーロッパやアフリカといった主要なグローバル市場へのアクセスが良く、各エリアの足掛かり的拠点として機能しやすいです。また、UAE以外の中東地域(サウジアラビア・クウェートなど)の玄関口としても地政学的優位性があります。また、インドやパキスタンからの出稼ぎ労働者が多く集まり、労働力の確保が容易で人件費も抑えやすいメリットがあります。
ALAN:つまり、ドバイは地理的なハブであり、人件費を抑えながら人材を確保できるという実務的な強みもあるわけですね。
質問4:日本の居住者の方がドバイに資産を移す場合に注意すべき税金の種類(所得税、相続税、贈与税など)を教えてください。
日本の非居住者となる際は、まず「出国税」に注意が必要です。特に自社株式の評価額が1億円を超えているオーナー会社の方は、出国する際に株式を譲渡したものとみなされ多額の納税が発生する可能性があります。
また、事業所得や給与所得のような所得税と違い、資産に対して課税を行う相続税や贈与税にはいわゆる「10年ルール」があり、出国した後すぐに課税義務が消えるわけではありません。
さらに、昨今はマネーロンダリング規制などで国際送金も難しくなっているので、計画性をもって行う必要があります。
ALAN:要するに、移住直前だけでなく、その前後を含めた長期的な税務計画が必要になるということですね。
質問5: 日本の居住者がドバイで資産管理を行う場合に注意すべき点を教えてください。個人と法人の両面から教えていただけますか?
個人の場合、日本の「タックスヘイブン対策税制」に要注意です。ドバイ法人を設立したとしても、50%超の株式を保有している場合(つまり、自分が主要株主である場合)はドバイ法人の収入であっても日本で課税されるリスクがあります。これは少し複雑なので、別の機会で改めて説明しますね。
法人としては、法人税や付加価値税(VAT)の申告・納税義務に留意が必要です。法人税は所得の金額にかかわらず必ず申告する義務がありますし、VATは一定の金額の売上を超えると届出や申告が必要になります。
ドバイでは「罰金ビジネス」と揶揄されるほど、ルールから外れた場合に罰金がかかってしまうことがあるのが実情です。そういったルールをしっかり理解しておかないと、思わぬ罰金や追徴課税で損をしてしまうかもしれません。
ALAN:つまり、ドバイであっても日本側の税制や現地の申告義務を軽視すると、大きなリスクになるということですね。
質問6:先生のご経験から、どのような経営者・投資家にとって、ドバイ進出は特に効果的でしょうか?逆に、どういう方にはあまり向かないと考えますか?
ドバイ進出が特に効果的なのは、オンライン完結型の事業を行っている事業者、例えばエンジニア、Youtuber、トレーダーなどで、実際に移住する意向のある個人事業主やオーナー経営者だと思います。
また、製造業や卸売業など現地に販売拠点や工場を設け、税制優遇や安価な労働力を活用したい中小企業経営者にも大きな利点があると思います。
一方、日本に居住したまま法人のみを設立する場合は、タックスヘイブン対策税制による課税リスクが高く、節税効果が限定的となるためあまりおすすめはしていません。
ALAN:ドバイは税制優遇だけでなく、世界市場へのアクセス、安定した治安、多国籍な人材環境といったビジネスと生活の両面で魅力がそろった拠点だということがわかりました。また、移住や事業展開を本格的に行えば、その恩恵を最大限に活かすことができそうですね。
次回は「知らないでは済まされない - 日本の国際税務」をテーマに、進出前に必ず押さえておくべき税制と注意点を詳しく解説します。

< 筆者紹介 >
岡本 信吾(Shingo Okamoto, CPA)
Alwasiq Management Consultants ジャパンデスク責任者 / 公認会計士(Certified Public Accountant)
ドバイ在住の会計・税務アドバイザー。大手監査法人EYにて5年間勤務した後、東京都港区にて税理士法人を開業。現在はUAE(ドバイ)のAlwasiq Management Consultantsにて、ジャパンデスクを率い、100社以上の日系企業を対象に、国際税務・法人設立・資産管理に関するコンサルティングを提供中。
「日本とドバイをつなぐ税務のプロフェッショナル」として、クロスボーダー取引・ドバイ進出支援を行っています。
🌐 公式サイト:https://alwasiq.net/jp/



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