【国際税務コラム第3回】資産を「法人で守る」ことの本質
- 公認会計士(CPA) | 岡本 信吾

- 9月17日
- 読了時間: 6分

第2回では、日本人がドバイに進出する際に避けては通れない「国際税務」について、特にタックスヘイブン対策税制を中心に解説しました。
では、実際に資産をドバイで保有・運用する際には「個人で持つべきか」「法人で持つべきか」という大きな選択肢が生まれます。
そこで今回は「資産管理法人を活用する本質」について、法務・税務・承継の観点から岡本先生に伺いました。
質問1: 日本の居住者が、ドバイの不動産や有価証券といった資産を「個人名義」で保有する場合と「法人名義」で保有する場合では、法務・税務上、どのような違いが生まれるのでしょうか?
ドバイの不動産や有価証券を個人名義で保有する場合、所有権は個人に直接紐づきます。日本居住者には「全世界所得課税」の原則があるため、どの国で得た利益であっても日本で合算して申告・納税が必要となり、税務上のメリットはあまりありません。
一方、法人名義で保有する場合は、法人が主体となり、そこから生じる利益にはドバイの税法が適用されます。結果として法人化による節税効果が得られるケースもありますが、前回お話ししたタックスヘイブン対策税制が適用される可能性には注意が必要です。
ALAN:個人保有はシンプルですが課税回避の余地がなく、法人保有は柔軟性はあるものの制度の壁が存在するのですね。まさにどちらを選択するかが重要な分かれ道ですね。
質問2:「資産管理」という観点から、法人を設立することで、どのようなメリットがあるのでしょうか?

① 税務上のメリット
法人を通すことで、国際的な租税条約や制度を利用したタックスプランニングが可能になります。
② 資産移転の効率化
資産を法人で一括保有すれば、株式譲渡を通じて配偶者や親族へまとめて移転できます。ドバイ不動産の直接譲渡では2%の手数料が発生しますが、株式譲渡なら税金・手数料がかかりません。
③ 資産と個人の分離
法人は有限責任であるため、リスクを限定できます。また所有と経営を分離し、オーナーとして資産を守りながら運営を委任することも可能です。
ALAN:つまり、節税・承継・リスクヘッジ、三拍子そろったのが法人化の強みだと言えますね。単に税金を抑えるだけではなく、次の世代へのスムーズな移転や資産と個人リスクの切り離しまで見据えられるのは、法人化ならではの利点だと感じます。
質問3:法人を活用することによるデメリットについて教えてください。
法人を設立すると、設立費用や毎年のライセンス維持費(80〜100万円程度)が発生します。一定以上の規模で運用しないと、コスト負けしてしまう可能性があります。
また、個人の所得税率が0%であるUAEにおいても、法人の場合は9%の法人税が課される場合がある点に注意が必要です。
ALAN:法人化すれば万全というわけではなく、規模やコストとのバランスを見極める必要があるということですね。
質問4:資産の種類によって、保有させる法人を分ける戦略は有効ですか?
資産規模が10億円未満であれば、一社でまとめた方がコスト効率は高いケースが多いです。法人を複数に分けるとライセンス費用などが重くなるからです。
一方で10億円以上になると、銀行から資産ごとにライセンスを分けるよう求められる場合があります。その場合、複数法人に分けることでコンプライアンスが強化され、さらに法人ごとに約1,500万円の基礎控除があるため、税務上のメリットも生まれる可能性があります。
ALAN:つまり、規模が小さいうちはシンプルに一本化し、大きくなると分社化で効率化ということですね。資産規模によって最適解が変わるわけですね。
質問5:資産管理法人を設立する国を考える際、どのような点に注意する必要がありますか?

もし移住を前提にするなら、移住先に法人を設立するのがベストです。実態を持たせやすく、銀行口座の開設や資金調達も有利になります。
比較する際には、維持管理コスト、適用される税制、国際送金のスムーズさ、銀行口座の開設条件や費用などを総合的に考える必要があります。最終的には、実際の投資収益(インカム・キャピタルゲイン)をどう最大化できるかが判断軸になります。
ALAN:法人をどの国に設立するかは、単に税率が安いかどうかではなく、維持費や制度の使いやすさ、銀行口座の条件などを総合的に判断する必要があるわけですね。表面的な条件だけではなく、実際の資産運用効率まで見据えることが肝心だと感じます。
質問6:規制を遵守した資産管理会社を運営するために、どのような管理体制を整備すべきでしょうか?
ドバイでは会社ごとに定められたアクティビティ(事業内容)があります。範囲外の活動は違反となり、罰金や銀行口座の停止につながります。そのため、運用方法を事前に明確化し、変更があれば速やかに申請する必要があります。
さらに、運用規模が大きくなると、AML(アンチマネーロンダリング)やUBO(最終便益者規制)に基づく当局の要請が増えるため、適切な情報開示が欠かせません。
ALAN:たしかに、法人は作って終わりではなく、AMLやUBOなど国際的な規制を常に意識しなければならないのですね。違反すれば口座凍結や罰金といった大きなリスクにつながるので、継続的なモニタリング体制が不可欠だという点は非常に重要です。
質問7:事業承継や相続のためにドバイ法人を設立する方も多いですが、そのメリットは?

相続・事業承継に関しては「10年ルール」が重要です。相続開始から10年が経過すると、国外財産について日本の相続税・贈与税の対象外になる場合があります。
これを踏まえ、資産を海外の法人に移し、相続人と被相続人がともに海外に移住すれば、大きな節税効果を得られる可能性があります。
ただし単に法人を作るだけでは不十分で、中長期のライフプランと一体化させることが不可欠です。
ALAN:10年ルールを見据えた長期戦略こそが、資産管理法人を承継・相続で活かす鍵なんですね。
法人を使うことで、節税・承継・リスク管理といった多くのメリットが得られる一方で、コストや規制といった現実的な課題も無視できません。
結局のところ重要なのは「法人化するかどうか」ではなく、「自社の状況に合った法人をどう設計し、どう活用していくか」だとわかりました。
次回は「ドバイ法人ストラクチャーの徹底解剖」をテーマに、代表的な会社形態とそのメリット・リスクを整理しながら、最適なストラクチャーの選び方について詳しく解説します。

< 筆者紹介 >
岡本 信吾(Shingo Okamoto, CPA)
Alwasiq Management Consultants ジャパンデスク責任者 / 公認会計士(Certified Public Accountant)
ドバイ在住の会計・税務アドバイザー。大手監査法人EYにて5年間勤務した後、東京都港区にて税理士法人を開業。現在はUAE(ドバイ)のAlwasiq Management Consultantsにて、ジャパンデスクを率い、100社以上の日系企業を対象に、国際税務・法人設立・資産管理に関するコンサルティングを提供中。
「日本とドバイをつなぐ税務のプロフェッショナル」として、クロスボーダー取引・ドバイ進出支援を行っています。
🌐 公式サイト:https://alwasiq.net/jp/



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