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【国際税務コラム第5回】日本の相続税から資産を守り抜く


第4回では、自社に合った法人ストラクチャーをどう設計し、どのように活用するかについて解説しました。しかし、資産を「いまどう保有するか」だけでなく、「将来どう引き継ぐか」もまた重要なテーマです。

今回は、特に日本の相続税の仕組みとその壁に焦点を当て、ドバイをはじめとした海外を活用しながら、いかに長期的に資産を守っていくかを岡本先生に伺いました。



質問1: 日本は社会の高齢化に伴い、相続税の悩みに直面する人が増えてきていると言います。まずは、日本の相続税に関して、国際税務の観点から教えてください。


日本の相続税は、所得税とは違い海外移住などをしたとしてもすぐに課税義務がなくなるわけではありません。

所得税は「税務上の非居住者」、すなわち住所や1年以上の居所がないと判断されればその時点で非居住者として、日本国内から生じた所得以外の課税義務はなくなります。

一方で、相続税は相続人・被相続人が10年以上日本の住所を有しているか否かで判断するため、その課税判定が変わるまでに非常に長く時間がかかり、これが富裕層にとっては大きな壁になっていると感じます。

2017年までは10年ではなく5年でしたが、海外移住を利用した相続税対策が問題になり現在は10年まで延長されています。


ALAN:つまり、海外移住をしたからといってすぐに日本の相続税から解放されるわけではないんですね。特に10年という長期の居住履歴が課税判断の基準になるのは、多くの方にとって想定外かもしれません。



質問2:ではドバイに資産を持つ日本の居住者が亡くなった場合、ドバイにある銀行預金や不動産は、日本の相続税の対象となるのでしょうか?


一般的には、2か国をまたいだ相続が発生する場合、双国の税制を十分に検討する必要があります。とはいえUAEの場合は相続税がありませんので(一部不動産の譲渡にかかる租税はあるものの)日本側の相続税のみを検討すればよいということになります。

日本の相続税上は、日本の居住者は海外資産であっても日本の相続税の対象となります(全世界課税)。

このケースではドバイにある銀行預金や不動産も含め、相続財産については日本の相続税を納税する必要があります。


ALAN:ドバイには相続税がないという安心感がありますが、日本の税務上はどこにあっても資産は資産。日本に住んでいる限り、海外資産も対象になるというのは意外と知られていないポイントですね。



質問3:相続税対策の選択肢として「海外移住」を検討されるお客様も多くいらっしゃいます。海外移住を検討するにあたって注意するべきポイントを教えてください。


海外移住を検討する際は、先述した通りその国の相続税がどのようになっているかをまず検討する必要があります。

例えば、ニュージーランドやオーストラリア、シンガポールなどは相続税がありませんし、UAEにもありません。

以下の画像は2024年にHenley社によって調査された富裕層移住ランキングですが、相続税がない国に移住者が偏っているのがわかりますね。



ただし、税率だけで移住先を決めるのは正しいとは思いません。家族も含め、その国のことが好きになれなければ10年もの長い時間を過ごすことは出来ないからです。

子供の教育や、高齢の両親に何かあったときにすぐに日本に戻れる環境であるかどうかなど、年を重ねると重要になることも多いでしょう。そういったことを総合的に考え移住先を判断する必要があると思います。


ALAN:節税目的で移住を考えるだけではなく、「暮らす覚悟」がなければ続きません。税率だけでなく、家族全体のライフプランや居住環境も含めて慎重に判断する必要があるということですね。



質問4:日本の税法上で「非居住者」と正式に認められるためには、具体的にどのような手続きや要件を満たす必要がありますか?


非居住者という概念は所得税法と相続税法上で異なることもあります。

基本的な考え方としては「日本に居住実態がないかどうか」を判断する点で同義ですが、所得税には住所の推定 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2875-1.htm という規定があり、1年以上海外に住む場合は非居住者としての認定を受けやすい点が挙げられます。

一方で相続税法上の非居住者は滞在日数だけでなく、生活実態を総合的に判断します。所得税法の住所推定のような規定はなく、個々の実態によって判定する点で異なっています。

そのため相続税法上において「非居住者として正式に認められる」という特定の時点があるわけではなく、家族、職業、生活拠点、資産の所在地、国籍や滞在許可証(ビザ)などを総合的に判断して(税務調査等で)事後的に決められることになります。こういった判断要素をひとつひとつ分析し、少しでも非居住者として認定されるポイントを積み上げていく、というのが実務上重要な点になります。


ALAN:「非居住者になるにはいつから?」という疑問はよく聞きますが、実は明確なラインがあるわけではないんですね。個々の生活状況の積み上げがカギになるというのは、非常に実務的なアドバイスです。



質問5:日本の税務当局が個人の「生活の本拠」をどこにあると判断するのか、その客観的な基準について教えてください。海外での居住期間、国内資産の保有状況、家族の居住地など、どの要素が特に重視されますか?


先述の通り総合的に判断されるというのが回答ですが、個人的な見解としては

海外での居住期間>職業・家族の居住地>その他 という印象です。

そもそも海外に居住していなければ非居住者という根拠がありませんし、海外に長く滞在すればするほど非居住者としての蓋然性は高まり、生活の本拠ともいいやすいと思います。

次に家族の帯同も重要で、同一生計の親族が離れてくらすというのは通常あまり現実的ではなく、長期間の滞在は想定されません。職業が現地であるというのも海外非居住者であるという強い論拠になり得ます。

こういった生活の本拠に強く心象に影響を与えやすいものから対応していくのが良いかもしれません。


ALAN:単なる住所変更では非居住者にはなれないのですね。特に「家族」「職業」「長期性」が重要になるというのは、感覚的にも納得しやすい判断基準です。



質問6:海外移住を検討する上で最大のハードルの一つが「国外転出時課税(出国税)」です。どのような人が対象となり、どの資産が課税対象となるのか、その仕組みについて詳しく教えてください。


出国税は1億円以上の株式や証拠金取引のポジションに含み益を持っている人が対象になります。

現金預金や不動産、暗号資産は今のところ対象ではありません。最も多いケースとしては、日本でオーナー会社として経営していた会社を保有したまま海外移住しようとした場合、その株式の評価額が1億円を超えてしまっていたケースです。

この場合、出国税を支払わずに海外移住をしてしまった場合は納税漏れになってしまいますので、移住前に必ず税理士に確認し、株価の評価をしてもらいましょう。

結果として株式が1億円を超える評価額となっている場合は、その含み益となっている金額について出国前に15%(所得税)を納税する必要があります。



ALAN:海外に行く前に日本で税金を払うというのが出国税の仕組みなんですね。株式を多く保有する方には見逃せないリスクなので、移住前に必ず専門家と確認しておくべきポイントです。



質問7:晴れて日本の「非居住者」としてドバイで生活を始めた場合、その方の税務上の世界はどのように変わりますか?


UAEのような相続税のない国の居住者となり、日本の非居住者となった場合は、国外財産に関しては日本側の相続税制からは解放されることになります。UAEでは相続税がありませんので、実質的に相続税はかからないという世界になるといえます。

先述の通り、相続税法上の非居住者は所得税法上のものとは若干意味合いが異なります。日本からどのような税制(所得税・相続税など)が要求されているのか、またそれぞれにおいてどのような場合に税制の課税義務が免除されるのかをしっかりと意識して対策していくことが重要であると感じますね。


ALAN:ついに相続税のない世界が見えてきましたね。でも、そこにたどり着くには、制度の理解と地道な準備が不可欠。まさに「長期戦略」として取り組むべきテーマです。

相続税を回避するには、「移住すればいい」という単純な話ではありません。

税法ごとの非居住者認定の壁を理解し、10年ルール、出国税、生活の本拠といった複数の視点を織り交ぜながら、時間をかけた戦略が求められます。

「いつか来る相続」を見据えて、今何を始めるべきか。今回の解説がその第一歩になれば幸いです。


< 筆者紹介 >

岡本 信吾(Shingo Okamoto, CPA)

Alwasiq Management Consultants ジャパンデスク責任者 / 公認会計士(Certified Public Accountant)


ドバイ在住の会計・税務アドバイザー。大手監査法人EYにて5年間勤務した後、東京都港区にて税理士法人を開業。現在はUAE(ドバイ)のAlwasiq Management Consultantsにて、ジャパンデスクを率い、100社以上の日系企業を対象に、国際税務・法人設立・資産管理に関するコンサルティングを提供中。




「日本とドバイをつなぐ税務のプロフェッショナル」として、クロスボーダー取引・ドバイ進出支援を行っています。

🌐 公式サイト:https://alwasiq.net/jp/

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